ポイントカードはお持ちですか?(2)TSUTAYAが図書館に進出した本当のわけ

前回からの続きです。

ビッグデータはすべてターゲティングのため

私の一連の記事で紹介させていただいているのは、「広告は個人を正確にターゲットすることが最大価値である」ということである。自社商品を知らせ、興味を持ってもらい、購入行動へ導く以前に、「メッセージが届く人が、自社商品を購入する人か」を見極めることが重要である。独身男性に紙おむつの広告を出しても、女子高生に電気髭剃りの広告を出しても、効果はあまり期待できない。まったく無いとはいえないが、妊娠中の女性とか、二十歳過ぎの男性のほうが広告効果を期待できる。効率的な広告活動には、オーディエンスのデモグラフィックな情報だけでなく、嗜好性や日ごろの行動を知ることが重要なのだ。先々での行動を一本化して分析すれば、一人の人間ごとに次の行動を言い当てることができる、という考え方がネット広告では顕著に見受けられる。

TSUTAYAはこのビッグデータ時代に、次世代のオーディエンスターゲティングへの回答をすでに用意しつつある。

ビッグ2が手を組んだ

2014年6月、Yahoo! JAPANが利用規約を変更したことが大きな話題になった。表面的には「Yahoo!ポイントとTポイントの統合」となっている。Yahoo!で貯めたポイントは1ポイント=1ポイントでTポイントに移行できるということであり、ユーザーにとってファミリーマートなどのリアル店舗でもらったポイントと、Yahoo!ショッピングなどネットで手に入れたポイントをあわせてどちらかで1ポイント=1円で使えるメリットがある。しかし・・・・・・

TポイントはTカードを利用したときに加算されるが、そのとき「いつ、どこで、なにを、いくらで」購入したのかという経済的消費行動データがTSUTAYAに溜まる。

Yahoo!ポイントもショッピングなど物やサービスを購入したときはTポイントと同様だが、Yahoo! ID でYahoo!にログインしていると、「いつ、どこで、どんな情報に」触れたかという情報消費行動データがYahoo! Japanに溜まる。TポイントとYahoo!ポイントの統合は、知識欲と物欲の統合的理解と言い換えることができるのだ。

具体的にTポイントとYahoo!ポイントが持っている個人行動データを利用規約から拾ってみる。Yahoo! Japanの利用規約を参照した。
http://docs.yahoo.co.jp/docs/info/terms/chapter1.html

【CCCが持っているデータ】
・・・購入された商品、ご利用になったキャンペーンやサービスの履歴(Tポイントをご利用になった履歴を含みます)に関する情報やカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が独自の基準で分類したお客様の興味関心分野や推定したお客様の属性に関するデータ(以下「顧客傾向データ」といいます)・・・
【Yahoo!が持っているデータ】
Tポイントの付与を受けるための所定の手続きを行われたお客様の、ご覧になったページや広告の履歴に関する情報、当社(筆者注:Yahoo! JAPAN)が独自の基準で分類したお客様の興味関心分野に関する情報・・・

ところで、CCCはこの統合に伴って、Tポイントカードの規約も改訂する発表を2014年8月14日付けで行っている。それは、当年11月をもって、ファミリーマートやすかいらーくといった、店頭やサイト上でTポイントを付与する提携企業との情報共有について、法的な位置づけを「共同利用」から「第三者提供」に変更するというものだ(2014/8/14 ITPro既報)。

「共同利用」から「第三者提供」に、CCCがT会員規約を大幅改訂へ
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/news/14/081400456/

第三者提供にすることで、CCCの持つオーディエンスデータを他社に提供する際の自由度が高まる。第三者として想定される先として、警察やクレジット会社といった治安対応や決済方面の企業が考えられるが、なんといっても大きな相手は広告主であろう。

Yahoo! Japanは、既にYahoo! IDを使って、サイト内の行動を蓄積し「行動ターゲティング広告」として、そのデータを利用した広告商品を提供している。TポイントとYahoo!ポイントを統合してリアルとネットの行動を合わせた「行動ターゲティング広告」を提供するには、Tカードから得られる消費者の行動データを第三者(広告主)に提供できるようにすることが必要であったと考えられる。

Xrostがつなぐリアルとネット

こうして拡張された行動データを広告配信に展開するための仕組みを、既にCCCは持っている。それが、Platform IDが提供するデータエクスチェンジ「Xrost DEX」である。Platform ID社は2011年7月にネット広告専業のオプトとCCCが設立したネット広告取引プラットフォーム運用会社である。同社は、2014年5月Tポイントで得られたデータを活用した動画広告配信サービスを発表した。そのリリースによれば、

「本サービスでは、従来のターゲットユーザの属性を推測する広告配信ではなく、事実属性に基づいた広告配信が可能になります。さらに、リアル店舗での来店・購買データや利用者アンケートを組み合わせることで、広告接触ユーザ・非接触ユーザ・クリックユーザ毎の深い行動分析が可能になります。広告出稿企業は、オンライン上だけでなく、リアルチャネルでの来店やサービス利用、実購買に至るまで、<中略>施策実行が可能になります。」

プレスリリース参照元:
「Xrost DSP」、Tポイントのビッグデータを活用した動画広告配信サービスをリリース~事実データに基づく動画ターゲティング広告配信と態度変容分析を実現~
http://www.platform-id.jp/release/pdf/2014/20140519_GR_PI_XROST_DSP_CCC.pdf

この発表ではTポイントで得られたデータを行動ターゲティング広告に展開するという表現になっているが、TポイントとYahoo!ポイントが統合されている以上、当然リアルとネットの行動を合わせたものになっていくものと考えられる。

こうして、Tポイントカードのアクティブユーザー約4,000万人とYahoo! IDのアクティブユーザー2,641万人という消費者の膨大なデータを投入することで、O2Oやオムニチャネルといった現代的マーケティング活動を広告という側面から強化することができる。

データは量から質へ

"量"が確保されたら、次の課題は"質"に向かうのは自然の流れだ。リアルでの消費活動における質は、どこでどんなものを購入しているのかを見ることで把握することができるだろう。しかし、情報消費における質は、ネットメディアのYahoo!での行動だけでは不十分だ。

ネット上の情報は、Twitterほどではなくとも1つひとつが短く、かつ散乱している。人は検索を行って、関連する文章を頭の中で再構築し、1つの言説にまとめ上げていかなくてはならない。しかし、そういった作業にはかなりの時間と気力が必要となるため、ネット上ではともすればフロー情報の読み飛ばし(net-news)、聞き飛ばし(net-radio)、見飛ばし(net-video)という情報消費が主軸になる。

一方、書籍やCD、ヴィデオといった「パッケージメディア」は1つずつコンテキストを持った情報がまとめられている。一定の時間を拘束されながら、深くその情報に潜り込んでいくという情報消費といえる。情報消費行動データを取得するには、パッケージメディアとノンパッケージメディアの両方にリーチしなければならない。

ポイントカードはお持ちですか?(2)TSUTAYAが図書館に進出した本当のわけCCCには全国1,400店舗以上のネットワークがあるが、書籍のレンタルはしていない。そもそも、販売にしろレンタルにしろ利用者は対価を払わないと手に入れることができない。対価を払わずに行う情報消費は、他のものとは質的に違うものだ。その行動データを図書館に求めたと考えられる。「無料-有料」という軸と「ネット-リアル」という軸を合わせて、4象限における消費者の行動データを統合的に取得することが、CCCの戦略であると理解できる。

まとめ

さて、最後に図書館でTカードを利用することによって、個人の情報接触データがTSUTAYAに渡ることに対する危惧を、前回紹介した佐賀新聞社説から引用してこの章を終わることにしよう。

日本図書館協会は1979年の「図書館の自由に関する宣言」で「利用者の読書事実を外部に漏らさない」とうたった。背景には戦中、戦後に閲覧履歴が思想調査に使われたことがある。ICT社会の進展で情報の活用方法は進化しているが、閲覧履歴が重要な個人情報であることを踏まえて考えることは不可欠だ。

現在、武雄市図書館で自動貸出機利用時にTカードを使うと1日1回3ポイントもらうことができる。

武雄市図書館運営委託 「質」保つ根本議論不可欠(2012年5月20日)
http://www1.saga-s.co.jp/news/ronsetu.0.2208678.article.html